1998年7月1日登載(ver.1)
「『文書館用語集』の検討会」のレジュメ
全国歴史資料保存利用機関連絡協議会
関東部会月例研究会1998年6月30日
群馬大学教育学部 所澤 潤

1 利用者の目、―私の場合
  利用者が事典で言葉をさがすとき
1.1 言葉の意味を追った経験
○往復 検印 収受 達 訓令 法律 上申 申進 引替 回答 届け 報告 諸向 差出 提出 呈出 ……
  例1 東京帝大公文書の簿冊系列(最初は系列の区分が分からなかった)
    『文部省往復』……照会 通知
    『検印録』…………総長権限内の決裁
    『文部大臣准允』…文部大臣決裁を求める往復
    『文部大臣達』……文部大臣からの一方的な達
    時期により、文部大臣への決裁の上申が異なる系列の簿冊に
  例2 明治二十三年七月五日文部省通知(別紙参照)
   文書に関わる専門語
   議案 書式 別紙 通知 主務 属員 件 検印 決印 機密 準スル

1.2 資料集『東京大学年報』全6巻編纂(東京大学出版会、1993-94)の時
○専門用語が探し出せない
  例3 「差出し文」という語を造語
     文部G等宛に「……を差出す」と書く文書
     明治25年までは、「差出文」と「緒言」の2本立て
     明治26年以後は、「差出文」のみ
○思いがけない語彙の変遷
  例4 「雛型」→→「書式」
     (明治10年代の統計調査の用語の変化)

2 文書館らしさ
2.1 項目の選定
○職業的用語(文書取扱いの現場で使われてきた言葉)
一件書類 伺書 永年保存年数 回議文書 学校資料 完結文書 決裁文書 原議 現局 全庁記録保存年限表 長期保存文書 綴じ 廃棄 廃棄文書 引継ぎ 文書 文書管理規程 文書管理の諸規程 文書取扱規程編綴 簿冊 類聚編纂

○保存公開業務で発生した言葉
仮目録 寄贈 収集基準 収集作業 書架延長 廃棄決定 評価
○学術的発展から発生した言葉
現地保存 司法資料 資料学 史料学档案 大学アーカイブズ 大学史資料 大学史編纂 欄外注
○文書館業界の常識

自治体史編纂 常用文書 資(史)料センター問題 全国歴史資料保存利用機関連絡協議会 地域資料 地域文書館 地方文書館 町村合併 文書主管局 文書主管課
2.2 項目の内容
○文書館業界の特殊用法
件名 「図書館の件名目録とは異なる。」
寄託 「資料保存機関の保管庫に所有権の移動なしに、資料を収蔵すること。」
○教育的な用語解説
記録資料 記録資料 記録史料学
記録の原則
保存修復の四原則 原形保存の原則 原秩序尊重の原則
現地保存
公開基準
再評価 「どの収蔵資料の保存を継続するかを決定するために文書館の収蔵資料全体を評価し直すこと。」
照明 「照明の当たる時間と照度の明るさに比例して資料の劣化を促進するため、配慮が必要である。」
段ボール
地域文書館 「市町村の行政範囲を基本とする」
地方文書館 「都道府県文書館の呼称」
蜂の巣配架
半現用記録
閉鎖期間
「もんじょ」と「ぶんしょ」
文書館学 文書館原則
○歴史学とのはざま
 布告 布達 布令
3 アーキビストの専門性
 語義の確定
 バリエーション(地域差 時代差 業界差)の把握
 ←←いずれもアーキビストの専門性なしには困難
3.1 用語のバリエーション
○慣用語の抽出
  歴史学と文書係の接点
 例5・供閲のための印、決裁のための印(「検印」と「決印」か)
   ・規則制定日 公報搭載日、決裁日、議決日
   ・「起案文書」(説明中に「立案」という語があるが……)
   ・聞き取り調査、オーラルヒストリー、聞き書き
   ・「原議」「施行文書に対して、そのもとになった文書(通常、決裁文書)のことを言う」
○語義の追求
 例6・「回議」
   「他課など、別の分掌の担当者から印を得ることを一般に回議という。」
   (所澤潤「文書の流れと東京大学年報―付・手稿本取扱い情報一覧」東京大学史史料研究会(編)『東京大学年報』第六巻、1994.3、東京大学出版会、pp.563
  ・「回議文書」(用語集)
   「組織の意思決定や事務処理のため、関係者に回議し、決裁を受けるために作成された文書のこと」
  ★回議が定義されていない。果たして全国どこでも共通して、必ず「決裁」を受けるために回議がなされるのか。
○バリエーション(地域差・機関差)
 例7・「可然哉」と「仰高批」
・『台湾総督府公文類纂』簿冊三六三−一六
「   師範学校官制発布ノ件
 師範学校官制発布ノ義ニ付左案ヲ以テ内務大臣ヘ御稟申相成可然哉仰高批
      案
 〔以下本文〕」
・『文部省往復』明治十四年乙 A35 六五〇丁
「 医学部諸規則類相添左按地方学務局ヘ回答相成可然哉
 〔以下本文〕」
○バリエーション(時代差)
 例4・「雛型」→→「書式」
     統計調査の用語の変化(明治10年代)
3.2 公文書館業務の蓄積を用語集に
○公文書館業務の蓄積から生れた概念
 例8・「一件態」概念の導入
 俗称「一件」書類を、東京都公文書館は「一件」と「一件態」とに分離
「件数 一簿冊に綴り込まれた個々の完結文書の数。また、相互に関係がある複数の完結文書は一件として数え、一件態と称します。」
東京都公文書館(編刊)『東京都公文書館所蔵 行政文書目録・学事編 明治28年〜29年』(1992)の「凡例」(62頁)

例2別紙 明治二十三年七月五日文部省通知(/は印の中の改行部分)
出典:『文部省往復』明治二十三年〔A88〕帝国大学七月七日受の文書
傍点引用者

今般本省通常之議案書式別紙之通被相定候
条為御心得此段及通知候也
  明治二十三年七月五日
          文部大臣秘書官 印
        〔文部大/臣秘書/官之印〕
 帝国大学書記官
        御中

[別紙]
主務属員
   明治何年何月何日 ○  〃
           主務課長○
         主務局長○
大臣○
 次官◆
 総務局長○
  文書課長○
  関係局長○
    何〃件
何〃

備考
一次官ニ委任ノ事件ハ総務局長ノ欄ニ於テハ検印
セス次官ノ欄ニ於テ決印スルモノトス
一参事官ノ議ニ付スルモノハ其時ニ次官ニ於テ書式中
ニ参事官ト記入スルモノトス
一大臣官房ニ於テ取扱フモノハ官吏ノ進退其他機
密ニ渉ルモノヲ除ク外此書式ニ準スルモノトス