1994年夏期の積乱雲の出現特性 ---移動方向に注目した解析---
(天気に投稿中)
0.何故,積乱雲の出現特性を調べるのか?
夏期の関東地方に積乱雲が頻繁に発生することは,改めて言うまでも有りません.しかし,『その積乱雲の出現特性を調べた論文・文献を述べよ』と言われ,複数の文献を即座に答えられる人は少ないに違いないでしょう.その数の少なさは驚きに値します.この研究の第一の目的は,積乱雲の出現特性を明らかにすることです.
また,夏期の関東地方は熱的局地循環(山谷風)が発達する領域でもあります(河村,1977).この局地循環に伴い,日中に平野部の水蒸気は山岳域に輸送されて,前橋では可降水量の日変化が観測されます.水蒸気は積乱雲のエネルギー源ですので,この局地循環が積乱雲の発生と発達に影響を及ぼしている可能性があります.これを明らかにするのが第二の目的です.
1.データと積乱雲の定義
解析には,気象庁東京レーダ(時間/空間分解能:7.5分/2.5km)と前橋地方気象台(図1のM)気象地上観測データを用いた.解析期間は,1994年7月1日から9月10日である.
レベル4以上(16mm/hr以上)のレーダエコーを積乱雲に伴う降水エコーと考え,「対流性エコー」と呼ぶ.また,対流性エコーの面積の総和を,その日の「対流活動度」と呼ぶことにする.
2.対流エコーの観測頻度
図1は対流性エコーの観測頻度分布です.対流性エコーは山岳域で観測頻度が高く,特に,日光〜足尾山地の南麓,秩父山地や三国峠等の山頂域周辺で頻度の極大が見られる.これらの領域で対流性エコーが発生・発達し易いことが寄与している.
3.対流エコーの移動方向
1日の内に対流性エコーの移動方向が大きく変化することは少なく,その日に卓越した対流性エコーの移動方向をもって,「積乱雲の移動方向」と定義した.この「移動」は,対流セルの連続的な移動を抽出したものであり,新しいセルの形成による不連続な移動の成分を排除してある.
図2に,対流性エコーの移動方向の分布を示す.1994年は(赤線),南東方向(ESE〜SSE)に進む積乱雲と北方向(NNW〜NNE)に進む積乱雲が出現した日の頻度が著しく高いことが分かる.以後,前者の期間に出現した積乱雲をSE型積乱雲,後者の期間についてはN型積乱雲と呼ぶことにする.
1994年と同じように猛暑であった1995年について見ると(緑線),5事例のN型積乱雲と21事例のSE型積乱雲が解析され,この二種類の積乱雲は他の年にも出現していることが分かる.
4.SE型とN型積乱雲の特徴
1.大気状態の特徴
・積乱雲の移動方向と館野(図1のT)の500hPa風を比較すると,SE型積乱雲では30度以内,N型積乱雲では60度以内で大まかに一致している.
・SE型積乱雲が発生する日は,『夏型の気圧配置』であり,N型積乱雲の場合は,日本の南方に台風やcolu upper lowが存在した.
・SE型積乱雲が発生する前(09JST)の館野の大気成層は,3事例を除いて不安定であったが,N型積乱雲では.1事例を除き,安定な成層状態の場合が殆どであった.
・SE型とN型積乱雲が発生する日の多くは,局地循環に伴う南東風が前橋では観測されていた.
2.個々の積乱雲の特徴
・SE型積乱雲は山岳域で,N型積乱雲は平野部で発生する傾向にある.
・エコー強度は,N型積乱雲よりもSE型積乱雲が強い.
・「孤立した」対流性エコーの面積は,N型積乱雲よりもSE型積乱雲が広い.
・エコー頂高度は,N型積乱雲よりもSE型積乱雲が高い.
・寿命は,N型積乱雲よりもSE型積乱雲が長い.
・出現時刻は,N型とSE型ともに局地循環が発達する11時〜夕方であり,有為な差は見られない.
3.熱的局地循環に伴う水蒸気輸送と対流活動度
熱的局地循環に伴い平野部から輸送された水蒸気は山岳域に蓄積されるため(木村,1994;Kimura and Kuwagata, 1995),輸送された水蒸気量が積乱雲の発生と発達に影響すると考えられる.SE型とN型積乱雲が観測された日について,山岳域へ輸送された水蒸気量を推定するために,群馬県気象月報に記載されている前橋地方気象台で観測された南東風の最大風速(10分間平均値)と1日平均水蒸気量との積を「水蒸気フラックス指標」と定義する.積乱雲の対流活動度と水蒸気fulx指標との関係を図3に示す.SE型積乱雲の対流活動度と水蒸気fulx指標には正の相関がある.つまり,熱的局地循環によって山岳域へ輸送される水蒸気量が多いほど,SE型積乱雲の対流活動度が活発になると解釈できる.
それに対して,N型積乱雲では,水蒸気fulx指標と対流活動度に明確な相関は見られない.局地循環は,N型積乱雲の発達に余り影響を及ぼさないようである.
参考論文
河村武,1977:海陸風の気候.南関東大気環境調査報告書氈C気象庁,46-52.
木村富士男,1994:局地風による水蒸気の水平輸送 ---晴天日における日照時間の地形依存性の解析 ---.天気,41,313-320.
Kimura, F. and T.Kuwagata, 1995 : Horizontal heat fluxes over complex terrain computed using s simple mixed layer model and a numerical model. J. Appl. Meteor., 34, 549-558.
岩崎商店・TAPSホームページ
岩崎研究室ホームページ