NOAA衛星データを用いた陸域の可降水量の見積もり
0.可降水量とは何か?
 可降水量とは,大気中に含まれる水蒸気量の指標です.地上から大気上端までの水蒸気を総て凝結させたとして,40mmの降水量が記録されるとしましょう.この時の大気の可降水量が40mmです.
 図1は,太平洋高気圧に覆われた期間,群馬大学教育学部に設置したマイクロ波放射計で観測された可降水量の時間変化です.山岳域と平野部の熱的なアンバランスが引き起こす局地循環の結果,日中に可降水量が低く,夜間に可降水量が多くなる日変化をしています.この熱的局地循環に就いては,木村(1994)の解説が分かり易いので,そちらを見て下さい.

1.何故,陸域の可降水量を測るのか?
 図1に示した可降水量変動の実態を調べるのも目的の一つですが,私が一番知りたいのは,積乱雲群が発生する前の,積乱雲のエネルギー源である水蒸気の分布です.
 1時間毎のGMS画像をジックリ見ていますと,大陸上のある領域では,晴天域から雲クラスターが突然発生するように『見える』ことが頻繁にあります.その様な事例について,衛星データから水蒸気分布を調べられれば,雲クラスターが形成される前の大気循環についての情報が得られると考えております.つまり,水蒸気分布に注目して,晴天域の大気循環を可視化しようと言う訳です.

2.大雑把な原理の説明
 ここで用いるデータはNOAA衛星の赤外2波長データです.波長は,おおよそ10μm(ch4)と11μm(ch5)です.水蒸気量が多くなると,この波長帯(近似的に大気の窓)での大気の透過率は低くなります(Robert et al, 1976).重要なのは,10μmと11μmでの透過率の『差』と『比』が水蒸気量の関数になることです.この『差』を利用することで,表面温度が一様な海洋上での可降水量の見積もりが出来ます.しかし,陸域の地面状態は大きく変動するため,「表面温度が一様」の仮定は成立せず,『差』ではなく『比』を利用することになります.そして,この『10μmと11μmでの透過率の比』と衛星で観測した『10μmと11μmの輝度温度の分散の比』が等しくなることを利用して,水蒸気量を見積もるのです(Jedvolac,1990;Kleespies and McMilline, 1990).
 但し,JedvolacやKleespies and McMillineの方法では,ゾンデ観測との比較では相関係数が0.1未満と極めて低く,問題があります.そこで,本研究では色々な工夫を行って,約40km*40kmの平均的な可降水量を求める手法を提案しています.詳しい原理とアルゴリズムは,Iwasaki (1994a)をお読み下さい.

3.マイクロ波放射計で得られた可降水量との比較

 図2は,1995年7-8月の期間,群馬大学教育学部に設置したマイクロ波放射計で得られた可降水量(横軸)とNOAA12と14の赤外2波長データから求めた可降水量(縦軸)の比較です(但し,夜間データは不使用).群馬大学教育学部の北東〜北西にかけては赤城山,子持山や榛名山など山岳域が存在するため,Iwasaki (1994a)の手法をそのまま用いると,マイクロ波放射計よりも衛星可降水量が低く見積もられる事になります.図2において(+印),可降水量が35mm以上になると山岳が大きく影響しています.
 この山岳の影響を除くために,解析領域内の低い輝度温度を示す画素を除去するような条件をアルゴリズムに加えます.図2の●印が山岳補正を施した後の衛星可降水量であり,1対1の直線に近づいていることが分かる.Iwasaki(1994a)の4事例の検証データを合わせた計13事例の相関係数は0.87となり,この可降水量見積もり法の有用性が示されたと言えます.

4.熱的局地循環に伴う可降水量分布の時間変化
 このアルゴリズムを使えば,図1に示すような可降水量の日変化が卓越する期間について,関東地方の可降水量分布の時間変化を知る事も可能である.可能であるが,NOAAデータの幾何補正がなかなか上手く行かず,また,計算機のメモリーが足りず計算できない.いつになるやら....

5.今後の課題
a)NOAA画像の幾何補正を行い可降水量を地図座標に変換し,熱的局地循環に伴う可降水量分布の時間変化を可視化する.
b)積乱雲が多発する草津・白根や日光などの『山岳域』に応用できるアルゴリズムを開発する.
c)気象衛星ひまわり(GMS)の赤外2波長データ用のアルゴリズムを開発する.

参考論文
  • Iwasaki, H., 1994a:Estimation of preciptable water over the land using the split-window data from NOAA satelite. J. Meteor. Soc. Japan, 72, 223-233.
  • Iwasaki, H., 1994b :A case study of the mesoscale distribution of preciptable water using the split-window data a NOAA satelite. J. Meteor. Soc. Japan, 72, 467-474.
  • Jedvolac, G.J.,1990:Precipitable water estimation from high-resolution split-window radiance measurements, J. Appl.Meteor., 29, 863.
  • Kleespies, T.J. and L.M.McMilline, 1990:Retrieval of precipitable water from observations in the split window over varying surface temperature, J.Appl.Meteor., 29, 851-862.
  • Robert, C.D., J.E.A.Selby and L.M.Biberman, 1976: Infrared continuum absorption by atmospheric water vapor in the 8-12μm window, Appl.Opt., 115, 2085-2090.
  • 木村富士男, 1994:熱的局地循環  ----1993年度日本気象学会賞受賞記念講演----.天気,41,5-12.

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