火山学者による近未来予測には,意見の相違があるのが正常です.

Date: Sun, 1 Oct 2000 09:05:45 +0900
From: Yukio Hayakawa <hayakawa@edu.gunma-u.ac.jp>
Subject: [miyakejima:05944] Re: 早川さんに質問
To: miyakejima@usuzan.net
を一部削除修正した.

○○さんへ,

早川です.

学術世界とその外側社会とのかかわりにかんする基本的でたいへん重要な質問をして
いただきました.感謝します.そういった目から,以下に,わたしのかんがえをお伝
えします.これは火山危機だけの特殊事情ではなく,たいへん普遍的な事柄であり,
21世紀日本社会が早期に獲得すべき重要な案件だとわたしは考えています.ふだんそ
ういうことを忘れて生活しているごく普通の方に,火山危機のとき,このことがたい
へん身ぢかにかかわってきます.けさ,○○さんにそれが降りかかりました.

At 8:04 +0900 00.10.1,
>昨日ラジオのニュースで、どこぞの学会で東大の
>助手が三宅の噴火について報告をした旨、報道されました。
>チラっとしか聞かなかったので、学会名や報告者名までは
>記憶しておりません。

それは,きのう共同通信が配信した記事を読んだものでしょう.

>三宅島火山活動は終息へ=東大・大島助手が見解 2000-09-30 12:53
> 松江市で開かれている日本地質学会で30日、東京大学の大島治助手が伊豆諸島・三
>宅島の火山活動について「全体的に噴煙の高さが下がり、活動は終息に向かいつつある
>」と報告した。大島助手は29日、三宅島をヘリコプターで上空から観察。報告では「
>個人的な見解」と断りながら、現在の活動は地下から火山ガスを排出している段階で、
>噴煙は海抜約2000メートル。噴煙の高さが徐々に下がり周辺の火山性地震が激減し
>ていることや、山頂部分の地殻変動が収まっていることなどから「火山活動は最終段階
>に入った」と述べた

大島さんは,わたしの先輩です.東大駒場で教鞭をとってらっしゃいます.

>そこで、素人にはよく分からないのですが。
>この報道が正確だとして、

上の共同通信配信をもとに以下では議論しましょう.

>前記の報告は、早川さんの主張と異なる見解
>なのでしょうか?
>それとも、同じ事を別の側面から述べたものなのでしょうか?

異なる見解です.

学術に,永遠不変の絶対的真理はありません.
19世紀から20世紀に至る現代物理学の進展をみれば,それは一目瞭然です.地球を対
象とした学術である地球科学は,具体的対象物があるがゆえ,真理に到達するなんて
とんでもない.大系をつくることすらまだできていない.

また,未来を確定的に予知することは不可能です.あくまでも確率でしか予測できま
せん.したがて,いまの三宅島が行く先を知っているのは神だけです.

学術世界に神はいませんから,三宅島の行き先はだれにもわかりません.そう言う意
味で未来予測に真理はありません.未来を聞かれたとき,多くの学者は,ただ「わか
りません」とだけ答えます.そもそも質問されそうな場に近寄ろうとしません.(こ
れは,*その*学術を進展させるためにたいへん賢い方法だろうと思う) *は強調

ただ「わかりません」とだけ答えるだけではよしとしない少数の学者がいます.大島
さんと私はその中に入ります.また社会的立場上,答えなければならないひとがいま
す.たとえば井田・予知連会長です.

さて,では,国民の質問にどう答えるか.一番簡単なのは,もっとも権威ある機関が
シングルボイスでアナウンスすることです.医療や原発ではそのようなしくみがかな
りうまくうごいているようにみえます.もちろん,ここでの「うまく」は,アナウン
スする側からみた評価です.

ここまでで,かなりの人には気づいてもらえたと思いますが,権威ある機関からの公
式発表が「当たらない」場合が生じます.三宅島では6月以降,予知連見解が何度か
でましたが,そのいくつかは当たりませんでした.

当たらない繰り返しをみたとき,その学術コミュニティーの構成員はどうするか,あ
るいは当たらないだろうことが事前にたしからしく予見されたとき,その構成員はど
うするか.これは,現時点では個人の意識に100パーセントゆだねられています.

大島さんは,いまの予知連見解が,彼の考えるよりずっと危険によっているとみて,
個人の判断で意見を公開しました.わたしは,過去といまの予知連見解が,私が考え
るよりずっと安全によっていた/いるとみて,個人の意見を公開し続けています.

学者は,それぞれ固有の意見を持っています.だから学者としてこの国で給料をもら
えています.もし危険←→安全の数直線上に火山学者ひとり一人の意見を置くとする
なら,大島さんが右端,私が左端になるでしょう.ほかの火山学者はその中間にいま
す.おそらく井田会長は,中心点より右側にいるでしょう.

大島さんは,わたしと正反対の意見を7月以来ずっと公開してらっしゃいます.わた
しはそのことを,たいへん健全だと思っています.いっさい発言しないひとより,よ
ほど良心的だと思っています.

じつは,9月2日にTBSヘリに(偶然に)同乗して三宅上空へ行きました.ヘリポート
行きのタクシーの中でその予定を知った.わたしたちはたいへん仲良くヘリに同乗し
ました.その間,すこしだけですが,意見交換しました.大島さんは,わたしに「そ
うか,そういう意味で言っているのか.よくわかった」とおっしゃいました.私も,
大島さんがいっている意味を理解しました.しかしそれでも,大島さんと私は意見を
異にします.

外で見ていらっしゃるみなさん,このように,学者たちがきっちり働いていることを
知ってください.そして,(近未来予測が)いろんな意見になってしまうのはしかな
いことであり,それがむしろ当然なのだとわかってください.

無理に統一見解など出して,意見が一見そろっているとみえる学術のほうが,むしろ
あやしいのです.

わが国の経済予測が,ときどき複数のエコノミストの見通しとして新聞に載ります.
あの見方で学術(サイエンス)もみてほしい.カネにかかわるいとなみのほうが,直
接的にカネを生まない学術より,現状では先に進んでいます.


参考エコノミストの景気見通し報道に習おう