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外国人子女教育と教員養成 ―フレンドシップ事業による模索― |
群馬大学教育学部 所澤 潤 | 報告の趣旨 |
本報告は、昨年度の研究集会に引続き、群馬大学教育学部で行っている、外国人児童生徒がいることを前提とした学校教員養成の模索を紹介するものである。本年度は、すでに3年目を迎えているフレンドシップ事業による試みに当てる。 |
フレンドシップ事業による試みの趣旨 |
昨年度の報告でも述べたことだが、群馬県下の場合、外国籍児童生徒の在籍数が非常に多く、教師のライフサイクルの一時期に外国人子女教育に関わりを持つことがかなりあると思われ、直接日本語教室(外国人子女教室等と言われる)の受持ちとなる可能性も少なくない。群馬県の在籍外国人児童生徒数は、平成11年度には、『ぐんまの学校統計』によれば、小学校が1141人、中学校が364人、平成12年度には小学校が1085人、中学校が393人で、いずれも公立学校のみに在籍している。また、平成12年9月1日現在で、(県下の日本語指導を必要とする小中学校児童生徒の在籍数)/(県下の同上在籍校数)は、小学校が5.88人(全国4位)、中学校が3.17人(全国6位)である。 |
授業実施の狙いと内容 |
このような状況下では、教員養成に、外国人児童生徒の存在を前提とすることが必要であるが、現状はそのようになっていないため、私の所属する附属学校教育臨床総合センター(以下、センター)を中心にして、平成11年度から「教員養成学部フレンドシップ事業」を利用し、学生に外国人児童生徒の教育を体験させる授業を開講した。該事業は、平成9年度から文部省予算で全国的に行われているものだが、平成11年度は学部2年次生以上を対象にした選択科目として、翌12年度、13年度は、2年次学生が履修する選択必修「体験的学習」の内の1つとして開講している。 私は、この試みを、将来教員養成プログラムを実施する上で基礎的な経験の蓄積となるものとも考え、形成すべき教員資質という教員養成の原点や、教員が担う職務がいかなるものかを探る機会としている。資質については、昨年度の本研究集会の報告で掲げた4点とは別に、特別に外国人児童生徒を受け持っていない場合でも、外国人児童生徒に日本人児童生徒と同等に接することができる、という資質を加えておきたい。昨年度、私が目撃した事例でも、TTのいる班学習の授業の開始前に、内1人が外国人である6人の班の所にTTがやってきて、5人にだけうちとけた感じで声をかけたものがあり、事態の深刻さを考えさせられた。職務内容については、外国人子女教室の専任になった場合には、少くとも日本語教育、日本語学級への通級の管理、生活指導、児童生徒の転入出管理、父母への対応、指導助手(通訳)の職務の調整、学外視察者への対応など、一般学級の担任とは著しく異なるものが含まれており、それらについての基礎的な理解を与える必要もある。 この3年間の授業内容は、以上のような検討を行いつつ、事前学習、参観、体験学習の3部分から構成した。事前学習は、基礎的な知識を与えるためのものであり、本年度は、提供した内容は以下のようなものであった。 @センター主催シンポジウム「日本語を教える−国際化する義務教育の現場」の記録の講読。 A外国人労働者問題のディベート(日本語教育の一環として)(授業担当者:一橋大学講師)。 B日本語教育入門(日系人子女への指導を前提として)(授業担当者:電気通信大学講師)。 C日系人子女の帰国後の様子(南米での現地調査をふまえて)(授業担当者:帝京大学助教授)。 Dバイリンガル教育の実際(授業担当者:明治学院大学非常勤)。 ENHKドラマ「虹色定期便」(ピアスの問題)を視聴して文化の差異を考える。 F大泉町の外国人子女の多い保育園の実態の紹介(授業担当者:大泉保育福祉専門学校専任講師)。 本年度授業参観した場は、群馬大学・留学生センター、太田市立旭小学校、及びブラジル人学校ピタゴラスであった。体験学習の内容は、平成11年度は、日系ブラジル人の指導助手がポルトガル語で児童に料理の作り方を説明し、日本人児童が日本に来て日が僅かな女子同級生からポルトガル語による援助を受けながら料理を作り、群大生がその活動を支援するという内容であった。平成12年度はそれほど大掛かりな授業は企画せず、外国人子女教室で、受持ち教諭の指導のもとに、群大生が外国人の子供とケナフを使った紙漉を行い、紙作りをした。本年度は、群大生が児童と一緒に単語学習のカード(A5、B5)を作成し、児童をリードしてカルタ取り風のゲームをさせる、ということを企画した。協力を得て体験学習の場となった学校は、平成11年度が太田市立宝泉東小学校、12年度が太田市立旭小学校、そして本年度が太田市立旭小学校及びピタゴラスである。 |
実施上の諸問題 |
現在開講している授業では幾つかの困難に直面している。困難のうち最も大きいものは、講師謝金と教材費の財源確保のための文部科学省へのフレンドシップ事業申請を、3月末の県内教員人事異動より前の1月頃に行わねばならず、学校現場とあらかじめ相談ができないことである。それ以外にも、群馬大学教育学部に固有の問題として次のような点があるが、いずれも教員養成システムを形成するために解決しなければならない問題を含んでいる。 @上記授業メニュー領域の専門家は多くないため、講師の確保が難しい。 A現行の大学2年次実施は、3年次に設定されている教育実習の前であるため、学生の授業構想力、アイデアは著しく劣っている(但し、教育実習校の規格化された姿とは異なる学校像を先に経験することは非常に魅力あることだが)。 B現状の教員養成カリキュラムでは、日本語教育法、言語心理学、第2、第3外国語の学習機会が殆ど提供されておらず、基礎的学力が著しく不足している。 C日系南米人児童生徒が特に集中している東毛地区は、大学所在地から自動車で約1時間半〜2時間、電車なら3時間程もかかる遠隔地で、他の授業時間との兼ね合いで、体験学習の機会が設定しにくい(本年度は秋休みを利用した)。 D小中学校の熱心な教員の人事異動で、企画の変更を余儀なくされる場合がある。 E学部内で協力する教官の人数をある程度確保しないと運営が容易ではない(この3年間は、幸い科研費があったため、研究分担者の一部の教育方法、教育心理、住居学、地理学の教官が関わり、修論生・卒論生が投入されてきた)。 |
ピタゴラスでの体験学習 |
本年度から、特に上記問題点Dに対する対策として、体験学習を行う現場に、ピタゴラスを加えた。同校はブラジル政府の認可する私立学校で、太田市に位置し、幼稚園から高校までを兼ね備え、高校部の卒業者はブラジルの大学に進学資格が得られる。日本人教師は1名のみで、他はすべてブラジル人教師である。児童生徒数は、2001年7月18日現在、合計200人で、幼稚園(2学年)から8年生までが各10〜30人、高校生は15人である。ピタゴラスでの体験学習は、群大生に対する教育という点からいうと、ブラジル式の教育環境の中にいるブラジル人児童生徒にじかに接することができる、ということが非常に刺激的で教育効果が大きいように思われる。フレンドシップの運営の面からいえば、同校の夏休みが8月上旬の10日間程度と短く、体験学習に大学の夏期休業中を利用しやすいなどの利点もある。 |
教員養成システムの形成へ |
教員養成においては、多くの学生に広く体験学習を行わせる必要性と、少数の学生に本格的に体験学習を行わせる必要性の両方がある。教員養成カリキュラムにはいずれもが必要だが、いずれにしても現場体験は不可欠と考えられるので、将来の発展の準備として以下のようなことの積み重ねを大切にするように努めている。 @南米人児童生徒が一定数以上安定して在籍する小中学校との協力関係。 A熱心な教員との連携。 B教育委員会との連携。 C学校管理職との良好な関係。 また、少数の学生を対象にした本格的体験学習を実施するには、現在提供しているメニューの一部に代えて、独立した科目として異文化間理解、比較教育、社会学、日本語教育法を開講するほか、ポルトガル語、スペイン語などを新規開講しなければならないと考えている。 |
参加学生の感想から |
最後に平成12年度に授業実施に協力した4年生の感想を紹介しておきたい。「今まで、電車に乗って、日系人がいるとなんとなく嫌悪感があったが、外国人子女教室に出入りして日系人の子供達に接していたら、電車に日系人がいても全く気にならなくなった。」この感じ方の変化は、学生時代に外国人児童生徒の教育に接することの持つ意味の大きさを示しており、教員養成の一環に位置づけることの価値を物語っている。 |
付記 | 本報告は、筆者を代表として平成11-13年度に文部省科学研究費補助金を得た「群馬県太田・大泉の小中学校国際化の実態と求められる教員資質の総合的研究」(基盤研究(B)(2)、研究課題番号 11410069)の研究成果の一部である。 | 正誤 | 昨年度の報告に掲げた外国人児童生徒の県下平均数は、正確には本報告に掲げた統計と同様の集計を行ったものである。 | 出典 |
第14回 日本教育大学協会全国教育実習部門研究協議会 2000年10月13日(口頭発表)(於・大阪教育大学) 収録:『教育実習研究』第14集、2001年3月、pp.14-15 |
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